お菓子をくれなきゃ悪戯だ!
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


トリック・オア・トリートのトリートは“もてなし”という意味。
悪戯か、さもなきゃ もてなしかというのが原語訳になるのでしょうね。
子供へのもてなしだから、お菓子。
よって、お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ?となるワケで。
単に英和双方の言葉を沢山知ってりゃあいいってものじゃない、
日本語の描写も沢山知ってないと
趣き深い翻訳に仕上がらないばかりか、
もっと手前の話として、意味が通じないなんてことにもなりかねぬ。

 「そうそう。
  例えば“アイム ヒァ”を“現在”に変換するのは
  随分と大胆な翻訳だよなぁと思われちゃうようですよ?」

まあ、私んチは家庭内で日本語も交わされておりましたから、
そういうものという刷り込みが早くからありましたが、と。
平八が問題はなかったのと言いたげに“ふふふvv”と笑ったものの。

 「???」

ちょっと一足飛び過ぎたのか、
それとも…高校生にもなって そこまで英語は苦手なお嬢様なのか。
この風貌でそれはなかろうという、
色白な額や頬にかかる、光沢も麗しい金のくせっ毛をふわりと揺すり、
小首を傾げた紅バラさんだったのへ、

 「ですから、久蔵殿…。」

こちらさんは直毛ならではの濡れたようなつやが見事な、
やはり、金の色した髪にいや映える、
青玻璃の双眸を甘くたわめての苦笑を浮かべつつ。
白百合さんがフォローしての曰く、

 「欧米では
  外から戻ると“ママ、アタシは此処よ”って呼びかける訳ですよ。」

 「……っ。」

そっか“ただいま”のことかと、
やっと意図が通じたぞと、うんうん頷く稚さが

 “また可愛いったらvv”

や〜んvvと ますますの色濃く
端正な造作のお顔へ甘やかな笑みが浮かんでしまうほどに、
同級生相手に母性をくすぐられておいでの白百合さんなのは まま今更な話。
そんな七郎次へこそ、あらためての苦笑を重ねつつ、

「もっと丁寧に“アイム カミング”と言うこともあれば、
 ただ マムとかママの名前とか呼ぶってのも有りですが。」

ひなげしさんが付け足せば、

「そうそう、
 欧米ではパパとかママって呼ぶのは子供のころだけで、
 大人になると名前で呼び合うんですってね。」

「名前…。」

そこも今まで意識したことはなかったか。
海外からのお客人にもお友達が多数おいでなはずの、
ホテルJの看板娘が
だっていうのに“おややぁ?”なんて首を傾げており。
そこへと とどめを差すように、
やや厳かな口調になったひなげしさん。

 「しかも敬称略です。」

いかにも重要なことのよに付け足したものだから。

 「……っ。(おおおおお)」
 「大仰ですよ、久蔵殿。」

ヘイさんも悪ノリしないの、と。
窘めた白百合さんだが、お顔は今にも吹き出しそうだったその上、

「時代が時代だったら
 不敬罪で勘当されちゃうわね、日本だと。」
「確かに。」

こらこら、久蔵殿まで便乗して。(苦笑)

「だって、お父上へ“やあ内蔵助”はないでしょう。」
「なんですか、その“クラノスケ”ってのは。」
「十二月に恒例の…。」
「第九をBGMに、
 しんしんと雪の降りしきる中を
 子供たちからサンタへの
 リクエスト状をとり急ぎ届ける一行が、ですね。」

 ……真顔でそういう笑えない冗談を言わない。

相変わらず、
深窓の令嬢たちにしては いいノリしておいでの三華様たち。
先日のQ街での捕り物騒ぎから既に半月が経っていて、
結構バタバタしたが、さすがは本格的な布陣で掛かっただけはあり。
少年課が移送車繰り出してという派手な格好の“補導劇”だったことから、
まだお出掛けモードだった十代のやじ馬も多かったその上、
それを目撃したクチが次々に“つぶやき”で広めて下さったため。
あの辺り一帯で広まりかけていた、
どこぞのお嬢様たちが、世直しもどきの大暴れをしつつ、
相手から金品を巻き上げてたらしい云々という物騒な噂は、
便乗した偽者のしわざという格好で落ち着き、
その後 欠片ほども聞かれぬそうで。

  そんなこともありましたわね、
  そうでしたわね、
  ああ、と。

地域限定、しかも真相は極秘だったとはいえ、
結構な騒動だったにもかかわらず。
昨年度の話でも持ち出されたかのように、
気のないお返事しか出て来ないお嬢さんたちなのは、

 「だって、もう2週間も経ちましたし。」
 「………。(頷、そうそう。)」
 「その間にもあれこれ、面白いことや何や ありましたもの。」

体育祭の後片付けに大掃除。
それからそれから、
お次に控えし学園祭への準備も本格化しましたし。

「最寄りの駅前だけじゃなく隣町の駅にまで、
 ポスターが貼られておりましたが。」
「あれって…。」
「そうそう。
 背景になってた並木道の絵、ヘイさんの作品なんじゃあ?」
「あははぁ、実はvv///////」

凄い凄いと拍手した七郎次も、
剣道部の青空カフェでは2日目の調理のお当番をこなす予定だし。
片や、いい子いい子と赤毛を撫でた久蔵殿も、
コーラス部のピアノ伴奏とは別口、
演劇部の寸劇用の挿入曲をと頼まれてしまい、
編曲を変えた何曲か、録音参加ではあれ協力したとか。
そんな風にばたばたと忙しいからというのは勿論だが、

 「学園のどこにいても、さわさわ浮足立ってる空気があって。」
 「さすがに日も押し迫って来た観がありますねぇ。」
 「……v」
 「そうですね、久蔵殿。アタシもこういうのは嫌いじゃありませんvv」
 「あ、私もvv」

予定通りに運ばず、落ち着かないのがまたいいvv
そうそう、準備期間のが楽しいってホントですよね、などと。
そうこう仰せのお三方、
学園の来賓用の講堂のホールにて、
リボンフラワーやアクリルパネルなどを組み合わせ、
美術部の作品やら、華道部が活ける予定の生花を据える、
額縁やオブジェ風の台座を製作中。
……って、何かそれって
いつぞやにも徹夜で手掛けませんでしたか、お三人。

 「だってこのお話って、
  年代は進んでも アタシたちは年を取らないって設定だし。」

 「………。(頷、頷)」

白百合さんも紅ばらさんも、
痛いところを突くでない……じゃあなくて。(苦笑)

 「あの年のような大パニックにならぬように、
  これでも早い目に手を打った結果ですよぉ。」

ちなみに、他の美術部の方々も、
それぞれの担当される場所への装飾にかかっておいでで。
あの折のように、一人でほぼ全部を抱え込んだ
ひなげしさんでは ないそうだが、
それでもこの、一番しくじれない来賓用の空間を任されたは、
実績を買われてのことに相違なく。

 「何人もで掛かると統一性がなくなりますし。」

そうは言いながらも…。
まだ穂が開かぬ銀色のままのススキや
松ぼっくりに団栗などなど。
いかにも秋を思わせるパーツを
樹脂を過熱しジェル状にして接着剤にするガンにて、
透明のパネルへと配置して。
それだけでも小じゃれた作品となりそな小卓を
完成させたひなげしさんの傍らでは、

 「…?」
 「そうですね。
  ここへは平たい水盤に
  リンドウと小菊をあしらうそうですから、
  青系統のパネルは避けましょう。」

色石を並べますか? それは素敵ですね。
こちらの窓際に置くのなら
お庭の楓を借景に出来ますから、
和風に仕上げた方が相性もいい…と。
自身にも生け花の心得がある白百合さんが、
なかなかに手際のいい久蔵殿へ、
手ほどき半分、気の利いた仕上がりになるよう指導中。

 「生け花は茶話室にも何点か配されるそうですが、
  そちらは花瓶との調和ある意匠という形を、
  華道部で検討なさるそうなので。」

台座を凝る必要はないとのこと。
それじゃあ、これで終わりですねと。
素材にしたあれこれや工作用のお道具を
片付けにかかったお嬢様がた。

 ……そうそう、楓といえば

 「………。」
 「えっとぉ…。」
 「…何でしょう。」

いやですよ。
確か今年度の学園祭にては、
五月祭の女神のような
“女王”を選ぼうとかいう動きがどうとか
言ってませんでしたか?

 「………。」×3

あ、やっぱり持ち上がったんだ。(笑)
しかもその反応ということは。

 「いやあの、それが。」

困ったことよと、
ついつい手を止め、
お顔を見合わせた三人だったのは、

 「自由投票にて“11月の女王”を決めることになって、
  実行委員会が開票するのが学園祭前夜。」

初日の来賓の皆様向けの“開会の儀”の中で、
誰に決まったかという発表がなされるそうで。
それ以降の2日間、
講堂にての発表会の開催の一声やら、
バザー基金の集計発表やら、
閉幕の儀の挨拶やら。
芝居がかったなりきりで
女王を演じ切らねばならぬとか。

 「五月以外にも、
  そんな面倒な貧乏くじを思いつくなんて。」

 「いっそ、推薦方式だったなら
  辞退という手もありましょうに。」

自惚れて言うのじゃあないが、
学園内の空気を嗅げば、
雲行きというか経過というかも何とはなく酌み取れる。
一度でもそういうものに縁が出来ると、
名前や顔が広まってしまうため、
選ぶのに迷った層が
“〜でいいや”と票を投じて下さる、
困ったスパイラル状態にもなっており。

 「シチさんたら
  “剣道部の鬼百合です”ってアピールしないから。」
 「そういうヘイさんだって、美術部の裏番長ですと。」
 「誰が“裏番長”ですか。」
 「〜〜〜〜。」
 「まあまあまあじゃありませんよ、久蔵殿。」
 「そうそう。
  あなたも、斉唱部の仙女様だの、
  オスカル様だの言われてますから、
  選ばれる率は高くて危ないんですのに。」
 「〜〜〜っっ!」

尻尾があったらぶわっと膨らんだだろう、この反応よ。
感情が判りにくいはずが、
今だけは例外的にその のけ反りようで驚いたと判った、
自覚無さ過ぎの紅ばらさんも含め、

 「お姉様がた、燃えるゴミはありませんか?」
 「あら、○○さん。清掃委員ですの?」
 「は、はいっ。//////」
 「……▽▽、髪が。」
 「あ、やっ、あのっ。//////」
 「大変ですね。あ、これお願い出来ますか?」
 「は、はいっvv」
 「お預かりしますっvv」

 キャ〜ン、名前を覚えていただけてたvv
 どしよ、髪を直していただいた。////////
 ひなげし様と手が触れちゃったよぉvv
 私も〜vv それにいい匂い〜vv

下級生たちを前に、
はんなりにっこり極上の微笑みや、はたまた凛々しい振る舞いにて、
憧れのお姉様をばっちりと演じ切るほどの平静を保ちつつ。
その内心では
“チッ、余計なものを立ち上げおってからに”と。
お陰で妙に落ち着けない心地を当日まで抱えにゃならなくなった、
三華のお三方だというワケらしく。

 「あ〜あ。」
 「お祭り騒ぎは大好きですのにねぇ。」
 「〜〜〜。」

だって、この身が拘束されちゃったら、
観に来てくれるあの人この人と、ゆっくり過ごす時間も削られる。
巷では秋のばらもそろそろ終わる頃合いだけれど、
中庭の温室では特別な品種のがまだ満開。
それを教えて差し上げがてら、一緒に眺めたいじゃない…とか。
少し高台にあるこの学園は、
そろそろ晩秋とあって、時折 意地悪な風も吹く。
キャッと細いうなじをすくめたところへ、
おやおやと温みの残るマフラーなぞ掛けてもらえたら…とか。
油断していると、
バレンタインデーだのクリスマスだのに
他の生徒からの贈り物をされることもある誰かさんなので。
俺のだ取るなという意思表示を見せつけて回る必要が…というのは、
榊せんせえに同意を取り付けてからになさいね、誰かさん…とか。(笑)
そんなこんなと夢見ていたの、なし崩しにされかねぬとあって。
とんだおまけがあったものだわいと、油断すると溜息さえこぼれそうなお三人。

 「〜〜〜、」

片付けも終わり、はぁあと吐息をつきつつ、
それじゃあ帰りましょうかと、
ツィードのコートはまだ早いので、
この時期だけ限定、
ウインドブレーカータイプのジャケットを
制服の上へと羽織り始めた彼女らだったところ。
紅ばらさんがポケットで唸り始めたスマホに気づいた。
何だ何だと取り出せば、メールが届いていたらしく、

  それを眺めること……10秒ほど。

 「きゅ、久蔵殿?」
 「どうかしましたか?」

どんな一大事だ、まさか意識が遠くなりかけているのではと、
あまりの無言さと凍りつきようへ、お友達二人が大きに焦り始める。
何しろ彼女は三木コンツェルンの跡取り娘で、
そのご両親も、まだ健在の総督“福耳の麿様”も、
あまりにお忙しい方々なので、
いつ過労から倒れても不思議ではないくらいだし。
まさかとは思うが、
その地位を妬む者からの逆恨みとかで、
財はおろかその身さえ狙われかねないお人らでもあり。
気を確かにと駆け寄れば、

 「いや、」

気は確かだがと言いたいか、けろんとしたお顔を上げてのそれから、

 「来るか?」

見ていたスマホの画面を二人へと向ける。
そこには、

 【 ママより
  ハロウィンパーティーの幕開けに会場で立つ、
  キャンディーガールをお願いしたいのだけれど。】

そんないかにも今時のお誘い、
数行の文面が届いていただけであったのだった。

 「…お〜い。」
 「一体何事かと…。」

 「???」








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  *人騒がせにもいろいろありますが、
   久蔵殿のコレは、地味な割に破壊力あると思います。
   つか、よく気が回り過ぎな あとの二人だってことで。(笑)


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